猫のポーズ。上下に動かすのではなく、背骨を遠くに伸ばす

ポーズの解説

ヨガのレッスン動画を眺めていると、静止して形を保つポーズと、動きながら行うポーズの二種類があることに気づきます。静止する方はまだ想像がつくけれど、動きのあるポーズは、どこを見て、何を意識すればいいのかが分かりにくい。そう感じたまま、動的なポーズに手を出せずにいる方は少なくないようです。

この記事は、そうした方に向けて、動きのあるポーズの入口になりうる「猫のポーズ(キャット&カウ)」を整理するためのものです。運動の経験がなくても、身体が硬くても、床に手と膝をつけるスペースがあれば始められます。

結論。目的は「上げ下げ」ではなく「背骨の伸び」

先に、この記事でいちばん伝えたいことを置いておきます。

猫のポーズは、背中を丸める、反らす、という繰り返しの中で、背骨の伸びを感じるポーズです。

背中を下げること、上げること自体が目的ではありません。上下に動かすのは手段であって、その動きの中で背骨がどう伸びているかを感じ取ることが、このポーズの中身にあたります。

そしてもう一つ。動きが単純なポーズだからこそ、呼吸を合わせるという作業に意識を向けることができます。この二つが、猫のポーズを最初の動的ポーズとして選ぶ理由だと考えています。

丸める・反らすの繰り返しの中で、何が起きているか

猫のポーズの基本的な形は、次のように説明されることが多いようです。

  • 四つん這いになる。手は肩の真下、膝は骨盤の真下
  • 背中を天井方向へ丸め、視線をおへその方へ落とす(猫の形)
  • 背中を反らし、胸を前へ、視線を斜め上へ向ける(牛の形)
  • この二つを、ゆっくりと行き来する

形としては、これだけです。難しい可動域も、片足で立つバランスも要りません。

ただ、この行き来の中で、背骨には普段あまり起きない動きが生まれています。背骨は、首から腰まで積み重なった骨の連なりです。日常生活では、その全体が均等に動く場面はそれほど多くありません。座っている時間が長ければ、同じ角度で固定されたまま何時間も過ごすことになります。

丸める・反らすを繰り返すと、その連なりが一つずつ順番に動いていきます。首のあたりから動き始めて、背中の真ん中を通り、腰まで届く。この「順番に動いていく感じ」が、背骨の伸びとして感じ取れる部分です。

外から見れば、単に背中が上下しているだけに見えます。けれど内側で起きているのは、上下運動ではなく、連なりが順に開いたり閉じたりする動きです。ここに視点を置けるかどうかで、同じ形が別のものになります。

動きが単純だからこそ、呼吸に意識が向く

猫のポーズで、丸める・反らすと同時に行うことがあります。息を吸う、息を吐く。動きと呼吸を、同じ時間の中で進めることです。

一般的には、背中を丸めるときに息を吐き、反らすときに息を吸う、と案内されることが多いようです。ただ、その対応を厳密に守ることよりも、まずは動きと呼吸が同じ速度で進んでいること自体に意識を向ける方が、掴みやすいのではないかと私は考えています。理由は単純で、順序を正しく守ろうとすると、今度は「合っているか」の確認に意識が向いてしまい、身体の感覚から離れてしまうからです。

そして、動きと呼吸を合わせるという作業は、実のところ簡単ではありません。難しいポーズでは、形を作ることに手一杯になって、呼吸まで気が回らなくなります。息を止めたまま頑張っている、という状態は、ヨガを始めたばかりの時期によく起きることだと言われています。

猫のポーズは、そこが違います。形そのものは単純で、覚えることが少ない。だからこそ、余った意識を呼吸に向けることができます。

ここで一つ、区別しておきたいことがあります。「形が単純」ということと、「中身が浅い」ということは、同じではありません。猫のポーズの単純さは、欠点ではなく利点です。動きと呼吸を合わせるという、ヨガの中で長く付き合っていく作業を、身体で覚え始めるための場所として使えます。

裸足でヨガマットに足をかける様子。自然光が差し込む室内

初心者がつまずく一点。上下の動きに意識が奪われる

ここからが、この記事の核心にあたる部分です。

猫のポーズを始めたばかりの方には、共通してつまずきやすい点があります。それは、下に下げること、上げることを意識してしまう、ということです。

「背中を丸めてください」「反らしてください」と案内されると、意識はどうしても、その動作を正しく行うことへ向かいます。どこまで丸めればいいのか。もっと反らした方がいいのか。動きの大きさや、形の正しさが気になり始めます。

そうなると何が起きるか。動きは行われているのに、背骨の伸びを感じることがないまま、回数だけが過ぎていきます。

これは、身体が硬いから起きることでも、経験が足りないから起きることでもありません。案内された言葉をそのまま実行しようとした、その結果として起きることです。むしろ真面目に取り組んでいる方ほど、動作の側に意識が寄りやすいように見受けられます。

つまずきの正体は、動きの「量」に意識が向いていて、動きの「方向」に向いていない、ということだと整理できます。

コツ。背骨を遠くに伸ばすイメージを持つ

では、どうすればよいか。

上と下に、呼吸を合わせて動いていくときに、背骨を遠くに伸ばすイメージを持ってみてください。

上下に動かすのではなく、遠くに伸ばす。イメージの方向を変えるだけです。動作そのものは何も変わりません。それでも、身体の中で起きることは変わってきます。

具体的には、背中を丸めるときも、反らすときも、頭のてっぺんと尾骨が互いに離れていくような感覚を探します。丸めるときは、背中の面を天井へ押し上げながら、背骨全体が長く伸びていく。反らすときは、胸を前へ送りながら、やはり背骨が前後に長くなっていく。

上下に動かそうとすると、背骨は縮んだり潰れたりしやすくなります。特に反らす動きでは、腰の一点だけが折れて、そこに負担が集まることがあります。遠くに伸ばすイメージを持つと、動きが一点に集中せず、背骨全体に分散されていきます。

私の見方では、このイメージを持てるかどうかで、猫のポーズから受け取れるものはかなり変わります。根拠は単純で、同じ回数だけ動いても、伸びを感じられた時と感じられなかった時とでは、終わったあとの背中の感覚が違うからです。これは体感の話であって、身体に何らかの効能が生じるという話ではありません。ただ、感じ取れる範囲が広がるということ自体が、動的なポーズを続けていく上では意味を持ちます。

猫と牛、二つの名前について

このポーズは、日本語では「猫のポーズ」と呼ばれることが多いのですが、英語圏では「キャット&カウ」——猫と牛、と二つの動物の名前で呼ばれています。背中を丸めた形が猫、反らした形が牛の背中に見立てられていると言われています。

サンスクリット語では、猫の形をマルジャリアーサナ、牛の形をビティラーサナと呼ぶとされています。二つの別々のポーズを行き来する動きとして扱われることもあれば、一続きの流れとして扱われることもあります。

ヨガ自体は2500年以上の歴史を持つと言われていますが、この二つを組み合わせた形が、現在のように広く行われるようになったのは、比較的近年のことだとされています。長い歴史のすべてがこの形に直結しているわけではありません。ただ、背骨を身体の中心として捉え、そこに意識を通していくという考え方自体は、伝統的に語られてきたものです。猫のポーズは、その考え方に、動きながら触れられる形のひとつだと言えます。

自宅でできる、最初の一歩

特別な道具は要りません。マットがあれば敷きますが、なければ厚手のタオルやラグの上でも構いません。膝が痛くならない程度の柔らかさがあれば十分です。

  1. 四つん這いになる。手は肩の真下、膝は骨盤の真下に置きます。手のひら全体で床を押せる位置を探します。
  2. 背骨をまっすぐな状態から始める。動き始める前に、頭からお尻までが一本の線になっている位置を確かめます。ここが出発点です。
  3. 息を吐きながら、背中を丸める。おへそを覗き込むように、背中を天井へ押し上げます。このとき、頭のてっぺんと尾骨が遠ざかっていくイメージを持ちます。
  4. 息を吸いながら、背中を反らす。胸を前へ送り、視線を斜め上へ。腰だけを折らないよう、背骨全体で長く伸びる感覚を探します。
  5. ゆっくりと、5往復ほど。回数を稼ぐ必要はありません。一往復ごとに、背骨のどこが動いているかを確かめます。
  6. 動きを止めて、しばらく座る。終わったあと、正座か楽な姿勢で少し座り、背中の感覚を観察します。

動きが小さくても構いません。可動域の大きさと、感じ取れる量は、そのまま比例するものではないからです。むしろ、ゆっくり小さく動いた方が、背骨のどこが動いているかは分かりやすくなることが多いようです。

痛みが出る場合は、その手前で止めます。首を反らしすぎると負担がかかることがあるため、視線は無理のない範囲に留めておきます。

形は分かっても、感覚は残る

ここまでお読みになって、動きの手順自体はそれほど難しくない、と感じられたのではないでしょうか。実際、形を覚えることと、背骨の伸びを感じ取ることの間には、少し距離があります。

ポーズは、本や動画で見るだけでは、自分の身体の中で何が起きているかまでは分かりにくいものです。誰かに見てもらう必要はありませんが、同じ時間に一緒に動く場があると、呼吸と動きが揃っていく感覚は掴みやすくなります。

オンラインで、一緒に動く時間があります

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画像: Pexels

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