アーサナとは何か。ヨガの伝統が伝えてきた「快適な姿勢」の意味

ヨガの哲学

ヨガのポーズが、どうしても苦しい。伸ばそうとするほど身体がこわばり、これは自分に向いていないのかもしれない。そう感じている方に向けて、この記事を書いています。

先に結論めいたことを置いておきます。ヨガのポーズを指す「アーサナ」という言葉は、伝統的には「快適な姿勢」を意味していたと言われています。つまり、苦しさに耐えて完成形を作ることが本来の目的だったわけではない、ということ。この視点を持てるかどうかで、ポーズとの付き合い方は静かに変わっていきます。

アーサナは、力で作る完成形ではない

古い経典のなかで、アーサナは「スティラ・スカム」という言葉で語られてきたとされています。スティラは安定、スカムは快適。安定して、快適であること。それがアーサナの条件だと言われています。

ここで大切なのは、快適さが「力を込めて作る何か」ではないという点です。むしろ逆で、力が抜けて整った状態でそこに在れること。頑張って身体を固める方向とは、反対側にあります。

朝の練習を例にすると、その感覚が分かりやすいかもしれません。ひととおり身体を動かしたあと、シャバーサナ、伝統的には屍のポーズと呼ばれる仰向けの姿勢で、いったん完全に力を手放します。その後に座ったとき、身体全体からストーンと力が抜けて、それでいて背骨が整った状態で座れることがある。その座り心地のなかに、「安定して快適」という感覚が確かにあります。

安定して快適とは、力で作る姿勢ではなく、力が抜けきったあとに残る整い。ここが、この記事でいちばん伝えたい視点です。

木々の中で静かに瞑想する女性の後ろ姿

「頑張るもの」から「委ねるもの」へ

以前は、ポーズとは頑張って作るものだと思っていました。深く曲げるほど、遠くまで手が届くほど良い。そういう理解でポーズに向き合っていた時期があります。

それが今は、委ねるものへと変わりました。自分の力で身体をねじ伏せるのではなく、呼吸や重力に身体をあずけていく。すると、無理に押し込んでいたときには届かなかった場所に、かえって静かに近づけることがあります。

ポーズが苦しいと感じている方は、多くの場合、この「頑張って作る」側に立っています。そして頑張るほど身体は防御して硬くなる。委ねるという別の入り方があることを、まず知っておいてほしいと思っています。

動きの反復のなかに、瞑想が立ち上がる

アーサナは、瞑想をするための準備の時間だと位置づけています。ただ、準備という言葉だけでは足りないところがあります。アーサナをしている、まさにその最中にも、瞑想的な瞬間が訪れると感じているからです。

特に、太陽礼拝のように同じ一連の動きを繰り返すもの。あるいは、少し難しいポーズを静かに維持しているとき。そうした場面で、自分自身が何者かに動かされているような感覚が出てくることがあります。そのとき得られるのは、座って瞑想をしているときと同じ、何か大きなものにつながっている感覚です。

これはスピリチュアルな特別体験というより、身体を通して起きる出来事に近いものです。呼吸と動きが噛み合い、頭で考える余白がなくなったとき、動きそのものが静けさに変わる。準備と本番が分かれておらず、反復と維持のなかに瞑想が立ち上がってくる。ここに、アーサナという営みの奥行きがあります。

野原で座り、呼吸を整えている男性

2500年の蓄積と、身体という古い癖

ヨガはおよそ2500年、あるいはそれ以上の歴史を持つとされ、ポーズを中心とするハタヨガの体系が整ったのは8世紀ごろと言われています。長い時間をかけて、身体を通して人から人へ伝えられてきた実践です。

その伝統を前にすると、苦しさについても正直に書いておきたくなります。ポーズに向き合うとき、苦しさはおそらく訪れます。それは、これまでの生活のなかで積み重なってきた、何十年分の身体の癖だからです。長い時間をかけて作られたこわばりが、数回の練習の心地よさだけで解けていくことは、あまり多くないようです。そこには、ある種の痛みのような感覚が伴うこともあります。

ただ、その苦しさを「耐えるべき試練」として書きたいわけではありません。苦しさは、これから自分の身体と心地よく付き合っていくための、最初の関門のようなもの。終わりではなく、入口です。だからこそ、頑張って固めるのではなく、委ねながらほぐしていく。この両輪で向き合っていくのがよいと考えています。

ひとつ、はっきりと書き添えます。ここで言う苦しさは、癖をほぐしていく過程で生まれる感覚のことです。関節や腰などの、鋭い痛みや故障の痛みは別物です。その種の痛みを感じたときは、我慢せずに動きを止めてください。委ねることと、無理を通すことは違います。

自宅でできる、最初の一歩

もし今日、何かひとつ試すとしたら、ポーズを完成させようとしないことをおすすめします。

床に楽な姿勢で座り、背骨だけを軽く上に伸ばす。あとは、息をゆっくりと吐ききることに意識を向けます。吐く息が終わりきったところで、肩や顎の力がすっとゆるむのを待つ。それだけで十分です。深く曲げる必要も、遠くへ届かせる必要もありません。川の流れのような、無理のない呼吸のなかに身体をあずけてみる。その感覚が、委ねるという入り方の入口になります。

ここまで読んでくださった方へ

ここまで読んで、アーサナの意味が少し違って見えてきたとしても、その理解は本を読むだけでは身体には入ってきません。ヨガは古くから、言葉ではなく実践を通して、身体に落とし込むかたちで伝えられてきました。委ねるという感覚も、実際に呼吸と動きのなかで確かめてはじめて、自分のものになっていきます。

伝統的なヨガを、日本語で、自宅から、無料で実践できる場があります。free-yoga-japan.com で開いている週3回のオンラインクラスでは、ポーズだけでなく、呼吸と心の整え方も併せて伝えています。


画像: Pexels

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